「え、何で…」
「何でって…あなたが知ったことではないわ」
これはわたし達の問題なのだから、と稲荷さんは前を向く。
「…」
わたし達の間に暫く沈黙が流れた。
…確かに、稲荷さんの言う通り先週起きた事が異能力者達の問題なら、常人であるわたしが関わる事ではないのかもしれない。
でも…
「それでも」
わたしは力強く言う。
「わたしは、知りたいです」
”彼ら”…ネロ達の身に何が起きたのか、とわたしは稲荷さんの顔を見る。
「だってわたしは”彼ら”の友達ですもん」
このまま会わずじまいだなんて、嫌ですとわたしは声を上げる。
「…」
稲荷さんは静かにわたしの方を見る。
そしてこう言った。
この船は日本で生活している人の為に作られている関係で,大浴場のサウナ室や食堂を含めた全ての部屋には国外にいても日本のテレビやラジオが利用できるようになっており,当然ながらプロ野球中継も視聴できる仕組みになっている。
今中継で出ている場面は現在進行形で行われているホークス対巨人の対戦カード第二試合で先発はホークスが東浜投手,巨人は赤星投手だそうだ。
巨人ベンチには今日トレードされてきたばかりの元オリックス森捕手と元ロッテの山口選手,小林捕手と松原選手との2;2トレードで1週間前に才木投手と共に入団した大山選手が,ブルペンには中川,高梨,田中の3人の投手に加え,助っ人外国人のバルドナード投手,更にはヤクルトから金銭トレードで古巣に復帰した田口投手,無償トレードで獲得した元日ハムの伊藤投手もいる。
その様子を中継で見ている他球団のファンは「選手が移籍するのは勝手だけど,主力選手だけ引き抜くのはアカンやろ」とドン引きし,俺は巨人ファンなので巨人を応援,嫁も巨人応援で他は傍観という具合で船内の雰囲気は綺麗に分かれた。
試合が動いたのは船が淡路島を過ぎたのとほぼ同時の5回表ノーアウト三塁,田口選手と共にトレードされて来て、前年にアメリカへ飛び立った岡本選手に成り代わった元侍JAPAN村上選手の打席でフルカウントからのツーランホームランで巨人が先制、その裏に連打を浴びた後に甲斐捕手の3点タイムリーで逆転,その後は両者無得点でホークス有利の展開の展開が続いたが,9回の表に連打で巨人有利になると坂本選手のスリーランホームランで逆転すると,その裏に中川投手が三者凡退に打ち取り、そのまま巨人一点リードで試合終了。
そして,俺達は船内に2ヶ所ある飲酒可能なラウンジのうち西洋酒専門の方へ行きスミノフという度数の強いウオッカベースの割には飲み易いお酒をロックにして乾杯すると,嫁が「勝利の美酒って美味しい」と言って呑みまくり、2人で計7本のボトルを空けた。
2人ともデッキで海風に当たって酔いが覚めた頃,頭上の橋の向こうに尾道の街が見えている。
その後は同期達とデッキの喫煙ブースで少しメンソール系の煙草を吸いながら男3人で談笑していると進行方向左に宮島の,右奥に岩国市街の夜景が見えて来たので明日に備えて就寝とのことで散会する。
憧れの地,九州はもう少しだ。
「……フーイン?」
「そうだ」
「……Who in?」
「ふざけているのか?」
「すんません正直ちょっとフザケマシタ……でも何を封印しているのかは知りたいでつ」
「まったく……封印しているのは我々の同胞、ライトニング・クォーツ。過去の大罪により、私の能力にて永劫封じることになったのだ」
言いながら、ガーデン・クォーツは庭園内部を指差した。
「あれが見えるか?」
「見えないんだって」
「……む、貴様眼球がどちらも無いではないか」
「ちょいと諸事情あって抉り取っちまってまして」
「ならばクリスちゃん、何が見えるか言ってみてくれ」
ネコメの頭に顎を置き、クリスタルは目を細めて庭園を見据えた。
「……おにわ!」
「ああそうだなすまなかった。君に聞いたワタシが悪かった。今の貴様らの向きから11時の方向。およそ70mの位置だ」
「ん……? あー……何かすごいオーラのあるものは見えるッスね。いやお庭全体すごい感じではありますケド」
ガーデン・クォーツが示す先には、小さくもよく管理の行き届いた朱塗りの社が建っていた。
「あの場所に封じている」
「はぇー。で、なんでそれを『クリソベリル』のボクに教えたりしちゃったんで?」
「む?」
「自分の興味至上主義のクリソベリル族に、そんな面白い情報教えちゃってくれて良いんですかい? 行っちゃいますぜ?」
「……構わん。行ったところで貴様程度、死ぬだけだ。それに、いざ貴様を止めるだけなら、ワタシにもできる」
「はぇー……ガーデンのひと、一つ無謀な頼みがあるんだけど」
クリスタルに頭を揺さぶられながら、ネコメが言う。
「何だ? 聞くだけ聞いてやる」
「クリスチャンがめっちゃ行きたがってるんだ、行かせてくれない?」
「もちろん許さんが」
・アメシスト
鉱石:アメシスト 核:左のこめかみから頬にかけて線状に走る紫水晶の筋
能力:感覚の鋭敏化・鈍化
能力の由来:『酒に酔わない』の意味を持つアメシスト。アメシストの能力は、アルコールの中毒症状に飲まれる事無く、逆にそれによって引き起こされる感覚の鈍化と過敏化を自在に引き起こす。
クォーツ族の戦士。ルチルとは相棒の関係で完全に信頼しきっており、万が一共に戦うことになれば、死角への注意が完全に無くなる。知覚能力を鋭敏化し、恐怖や自衛本能を鈍化させることで発揮される高い格闘能力は、クォーツ族はおろか周辺の他部族でも勝てる者がいないほど。能力の使い方ゆえに負傷することも多い。
シトリンに憑依してもらうと壊れない上に拡張性が極めて高い身体が手に入るのでとても強いのだが、アメシストは身体の部位が少ない状態での戦闘には慣れていても多い状態での戦闘には慣れていないので、必然的に部位欠損を補う形で能力を発動する外無く、条件を満たしにくいという事情もあり、”バーント”は飽くまでも最終兵器。戦士の人手が足りなさ過ぎて基本的にソロで戦うことが多い。
・シトリン
鉱石:シトリン・クォーツ 核:額に2本生えた黄水晶の短い角
能力:親和性の高いメタルヴマに炎の形で憑依する
能力の由来:焼黄(やきき)から。焼黄とは人工的にシトリンを作り出す手法であり、紫水晶や煙水晶を加熱処理することで、その色を黄水晶のようにすることができるそうな。紫水晶由来だと「バーント・アメジスト」、煙水晶由来だと「バーント・スモーキークォーツ」というらしいですよ。
クォーツ族の護衛官。能力は自身を黄金色の炎に変え、仲間に憑依するというもの。炎は対象の部位欠損を補い、実体としてシトリン自身または憑依対象の意思のままに動く。ある程度の親和性が必要で、現状能力が適用されるのはアメシストとスモーキー、モリオンの3名のみ。ルチルのことを苦手に感じており、それとよく一緒にいるアメシストのことも警戒している。
アメシストに憑依した時の強さは本当に凄まじいのだが、では何故最強コンビがシトリン&アメシストではないのかというと、シトリンが戦闘力が低いにも拘らず重要度の高いスモーキーの護衛に就かなければならないこと、シトリンの能力では、実質的な人手が二人分にはなれないことが理由。
朝玄関を開けると秋と目が合った
名残りの陽射しがひんやりとした風に溶かされて
僕らが出逢って1年経ったことを思い出す
拝啓、遠くの君へ
この風は君の街にも吹いていますか?
返ってこないやまびこかもしれない。
また紡いでくれませんか、
あの人の言葉を聞きたい。