私のすべてをかけて あなたを守るから
こうみえても私は強いんだよ
肩を預けてください
11月、秋も深まり切って冬が近付く頃。
人々の服装も厚着になっていき、冬が近付いているんだなと感じられる。
かく言うわたしも、今日は寒くて厚手のコートを引っ張り出して”彼ら”の元へ向かったのだ。
着実に冬が、今年の終わりが近付きつつあった。
「それで、奴の目撃情報は?」
「全然」
北風が吹いて寒い中、わたし達はいつものように駄菓子屋の店先に溜まって駄弁っていた。
そしてもちろん会話の話題は、最近行動が活発になってきている”ヴァンピレス”についてだ。
「なーんでこうも涼しくなってきてから動きが活発になるかなー?」
「奴、暑がりなんじゃね?」
耀平と師郎はそう言いながら、駄菓子屋で買ったスナック菓子を口にする。
「いや、春も夏も多少はアイツ動いていたから、暑がりってのは言い過ぎかも」
ネロは手の中のココアシガレットの箱を見つめながら呟く。
黎はそれに賛同するようにうなずいた。
「とにかく、奴に協力している異能力者が存在している事が問題だな」
耀平はポツリとこぼす。
天王洲アイル(テンノズ・アイル)
種族:見た目は人間 性別:おそらく女性 年齢:ぱっと見若そう
身長:日本の成人女性の平均くらい
トレードマークは海中を思わせる青白い光(LED由来)を放つ右手の電気ランタンと腰のホルダーに何故か大量に差してある大小さまざまな種類の作図用のハサミ。持っている理由を問うたところ、無言でにこっ、てされた。多分ろくな理由じゃない。
居場所は不定。彼女がいそうだと思った場所を探すと大抵そこにいる。
趣味という程の趣味は無い。その場にいるのに自然な行動を取っている。
性格は通常時は淡泊。静かに自分のいる場に溶け込み、和を乱さぬような人格を再現する。
妖怪か何かの可能性がある。
ところで「天王洲アイル」って、Vtuberとかに居そうな字面してるよね……。少なくとも両隣の駅よりは人名と言い張れる字面してると思う。
水晶は割れた 魔女は消えた
人々は感謝した いつか消える仮初めの安寧に
フォールム本部内を1周して、あの部屋に戻ってきた。タマモは設備について逐一教えてくれたけど、様子を見ていた感じ、半分くらいは彼も初めて入った場所だったようだ。
彼が少し血のついたままの椅子に掛け、促されて私も向かいの席に座る。
「最後にここが、数ある休憩室の一つだ。最序盤でスルーした部屋は全部休憩室だな。誰がどこ使うとかは決まってねェけど、リプリゼントルは好きに使って良いことになってる」
「へー……」
「さて……施設内見学は終わったが、何か質問とかあるか?」
「はーい、ありまーす」
「何でしょうフヴェズルングさん」
「タマモせんせー、私、絵が全く描けないんですけどどう戦えば良いんですか? このガラスペンで何かを描いて戦うんですよね?」
「あー…………」
タマモはしばらく目を泳がせ、テーブルに備え付けられていたメモ帳のページとボールペンをこちらに差し出した。
「ロキお前、犬と猫を描き分けられるか?」
「…………」
とりあえずペンを取り、さらさらと2つの絵を描いてみる。なかなかに酷い出来の、辛うじて四本足の何かと分かる絵が並んでいた。
「すげェや、違いがある事しか分からねえ」
「お恥ずかしい限りで……」
「別に恥ずかしいことじゃねェよ。俺も絵はド下手だ」
そう言いながら、タマモはページをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあ、タマモはどうやってるの?」
「こうしてる」
ニタリと笑い、彼はガラスペンを取り出した。そのペン先からインキが垂れ、空中で一つの球形にまとまる。
「……さっきの紙捨てなきゃ良かったな。まあ良いや」
彼はメモ帳から新たに1ページ破り取り、宙に放った。そしてひらひらと落ちてくるページ片に、インキの球体、いや、弾丸を発射し命中させた。
「おー」
自然と拍手が出る。
「複雑なモン描けねェなら、単純なモンを武器にすりゃ良いんだ」
怠惰で暴力的な愛の歌
……って誰だこんなタイトルつけた奴!