わたし達がパッと声のする方を見ると、わたし達の進行方向にツインテールで白ワンピースを着ている白い鞭を持った少女が立っていた。
「わらわのことをお呼び?」
少女はそう言ってにんまりと笑みを浮かべる。
ネロはヴァンピレス‼と声を上げて具象体の黒鎌を出した。
「アンタなんか呼んでねーぞ‼」
ネクロマンサーがそう怒鳴ると、あらとヴァンピレスは小首を傾げる。
「わらわの噂を、していたのではなくって⁈」
ヴァンピレスはそう言って白い鞭を振るった。
「っ‼」
ネクロマンサーは咄嗟に黒鎌を構え、伸びてきた白い鞭を受け止める。
「逃げろ皆‼」
ネクロマンサーがそう叫んだので、わたし達は走って逃げだす。
ネクロマンサーはそれを見届けると、ヴァンピレスの鞭を払って彼女に向かい駆け出した。
子供はゆずの手を握ったまま静止し…そして振り返る。黒い短髪がふわっと揺れた。
「…君さ、もしかして生きてる?」
「え」
子供は困った顔をして視線を彷徨わせた。
「そういえば既に逢魔ヶ時過ぎてるのか…」
その一言になぜか背筋がぞわりとした。冷えた風がゆずの足に絡みつく。
「センドウ様って知ってる?」
「センドウ様?」
「先に導くって書いて、先導。この地域独特の…神?みたいな?」
「ふぅん…」
「最近まで忘れていたんだけど…私はどうやら先導様として崇められていたらしい」
「…んっ?」
話の雲行きが怪しい気がする。ゆずは戸惑うが、子供はそれを見透かしたように、信じてくれと懇願した。
「私は、名前がある者なら、いるべき場所に帰すことができるんだ」
「いるべき場所?」
「ほとんどの迷子は自分の家だな。家じゃない子とも会ったことあるけど」
「へぇ…よくわかんないけど…すごいんだね」
ゆずの言葉に、子供は苦笑いした。
「そんなにすごくはないけど。でも私を信じてくれるなら、名前を教えて」
“金細工師”厚木薫(アツギ・カオル)
年齢:24歳 性別:女性 身長:170㎝
芸術:彫金(打ち出し) 衣装:西洋風の軽鎧
『死に損ない』を自称するリプリゼントルの女性。現役リプリゼントルでは2番目に古参。過去の戦いで左腕は肩の付け根から失われており、左の脇腹には深い切り傷の痕が残っている。また、常に前髪で隠れていることから右眼も無いのではないかという疑惑がある。まあ目玉はちゃんと2つ揃ってるんだが。
性格は自称から察せる通り厭世的で投げやり。自分を卑下し役立たずであることに託けて全く以て戦おうとしない非協力的な人。
片腕が完全に失われていることから自分の芸術を実行することはほぼ不可能になっているものの、何故かリプリゼントルとしての力は失われておらず、現在はフォールムに就職して休憩室の一つを私室化して引きこもっている。戦法としては描き出した刀剣によるインファイトがメイン。剣の種類によってちょっと特殊な性能を発揮する。
唯一『先輩』と呼ぶべき現役最古参のリプリゼントルからは「オルちゃん」の愛称で呼ばれている。由来? そら”金細工師”よ。
自分には友人が少ない自覚がある。それでも、最近入ったサークルの縁で出会った同学年の白神さんとは、サークル以外でも昼休みには一緒に昼食をとったりする程度には親しい仲だ。
今日も2時限目の後、講義室を出たところでタイミングよく出くわして、食堂に向かうところだった。
「千葉さんや、最近調子はどうですかい」
歩きながら、白神さんが尋ねてくる。
「まあ、ボチボチやってますよ。けど今日も締め切りが明日までの課題が出て、キツいことキツいこと」
こちらも軽い口調で答える。
「ところで千葉さんや。午後の講義の予定は?」
「3限は無いですけど、4限と5限が入ってまして」
「うわぁ、そいつはまた、面倒な入り方してるな……。3限には何も取らなかったので?」
「取らなかったですねぇ……」
話しながら歩いているうちに、食堂に到着した。
「きょーうのメイさんはー、オウドンを食べるー」
「したら自分もそうしましょーっと」
『メイ』とは、白神さんの下の名前だ。漢字でどう書くかは知らないけれど、そういう名前だってことは聞いている。そんなことを言い合いながら、空いた席に鞄を置き、料理の受取口に向かった。