もう折れねぇ。
もう倒れねぇ。
もう「弱い」とは言わせねぇ。
言わせねぇっつってんだろ。
おい。
こら!
いつまでもか弱いちみっ子扱いしてんじゃねぇ! 私の戦力に影響するだろ!
ウサギは寂しすぎて死ぬ、ことはないんだけど、
人間は寂しすぎて死ぬ、ことがあるという不思議。
『特急しおかぜ』の魔女は線路に仰向けで転がっていた。電車がたまに上を通るが、彼女が気にする様子はなく…それどころかひどく眠そうに夕焼け色の瞳を潤ませてあくびをしていた。
「ふあ…」
平和である。特急しおかぜは今も現役で活動を続けている列車なので、幻影化する可能性が割と低い。更に幻影と遭遇したことも多くはなかった。が故に、彼女の危機管理能力は低い。
「おねぇちゃん、線路で寝ると危ないよ」
頭上から高い声が飛んできた。魔女は寝ぼけ眼をこすりながらもそもそと尋ねる。
「…うちが見えるの?」
「?変なこと聞くのね。見えるよ」
こちらを覗き込んできた声の主は少女だった。
「関東弁じゃなあ、どこからきたの?」
「東京!おねぇちゃんは訛ってるね」
「岡山弁じゃ」
「ふぅん」
少女はしばらく魔女のふわふわの髪をいじっていたが、興味をなくしたのかじゃあねと声をかけてとことこと去ってしまった。
「…変なの」
再び一人になった魔女は、そっと目を閉じた。
・“大船渡線の魔女”黄金鈴蘭
大船渡線から生まれた鉄路の魔女。ポンチョ風の衣装を身に付けている。ちなみに名前は大船渡線の愛称『ドラゴンレール』のアナグラムでもある。
一部廃線・BRT移行により、右腕が幻影化しているが、自身の力で生成した機械装甲で抑えているため、外見上の変化は特に無い。衣装の下に隠れているせいで機械腕すら目立たない。
部分的な幻影化のせいか、幻影に対する忌避感・嫌悪感は大した事無い。むしろ親近感さえ覚えている。
人間を観察することが趣味で、観察によって人間がどういった時にどのような行動を取るのかということを学習し真似るようになったが、積極的に接触してはこなかったので、再現性が不完全なことも多い。
普段はBRT区間に居座り、踏切跡やガードレールに腰掛けていたり、専用道路上をふらふら歩いていたりする。
・幻影
巨大な水まんじゅうみたいな見た目の幻影。直径は約6m。半透明の体組織の中に、全体の80%程度の直径の黒い核が入っている。かなり柔軟に変形し、そこそこの速度で動き、水を吸うと粘性が増し、多少の損傷なら気にせず動く。
君はとても優秀な子だ。
強く、賢く、逞しい。きっと一人でも生きていけよう。
だが『子供』には『保護者』が必要だ。
私は『親』でも『先生』でもないから、消去法で『良き師匠』ということで。
……何、「良き」は余計?
何を言う、私ほどこの形容詞が似合う猫はいないだろう?