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瀬戸内海の潮風

『特急しおかぜ』の魔女は線路に仰向けで転がっていた。電車がたまに上を通るが、彼女が気にする様子はなく…それどころかひどく眠そうに夕焼け色の瞳を潤ませてあくびをしていた。
「ふあ…」
平和である。特急しおかぜは今も現役で活動を続けている列車なので、幻影化する可能性が割と低い。更に幻影と遭遇したことも多くはなかった。が故に、彼女の危機管理能力は低い。

「おねぇちゃん、線路で寝ると危ないよ」
頭上から高い声が飛んできた。魔女は寝ぼけ眼をこすりながらもそもそと尋ねる。
「…うちが見えるの?」
「?変なこと聞くのね。見えるよ」
こちらを覗き込んできた声の主は少女だった。
「関東弁じゃなあ、どこからきたの?」
「東京!おねぇちゃんは訛ってるね」
「岡山弁じゃ」
「ふぅん」
少女はしばらく魔女のふわふわの髪をいじっていたが、興味をなくしたのかじゃあねと声をかけてとことこと去ってしまった。
「…変なの」
再び一人になった魔女は、そっと目を閉じた。