あいつにさえ出逢わなければ。
きっと、今、ここに居なかった。
こうして眠りにつくことも無かった。
そして、あの子が火星に行く様な事も無かった。
あの子はきっと、家に帰ってしまったんだ。
そうとしか思いたくない。
でも。
神様みたいなあの子はきっと火星人。
あの方の夢を叶えてあげたい。
それが私の夢
あの方は私の希望
いいえ、おそらく全ての人の希望
私の胸の苦しみを消してくださった
あの方の夢を叶えてあげたい
それが私の夢
「_っ、くしゅんっ!」
ゆずが大きくくしゃみした。すでに夜も更けてきている。つい数十分前には、夜明けまでに山を出よう!と前向きな気持ちでいたのが段々とテンションが落ち込んできていた。せんちゃんが歩みをとめて振り向く。
「大丈夫か?寒いなら火でも起こすけど」
「ん…大丈夫…くしゅっ!」
「…ほら」
せんちゃんは呆れたようにゆずをコートの中に入れた。
「うわわ、びっくりした」
「寒くない?」
「大丈夫、寒くない」
「良かった」
「ありがと…なんか、お兄ちゃんみたいだね」
性別は実のところよくわからないが、頼れる人という意味をこめて言ってみた。
「…慣れないことを言われると反応に困るな…」
せんちゃんは微妙に困った顔をした。