「ならよかった」
でも本当にごめんなさいね、と寧依はキヲンがぶつかった相手とその連れ合いと思しき上着のフードを被った6人に頭を下げる。
その様子を見た相手たちはいえいえこちらこそとか大丈夫だよとかと返したが、キヲンとぶつかった人物だけは神妙な面持ちでキヲンの方を見つめていた。
「じゃあ、わたしたちはこれで…」
ほら、きーちゃんと寧依が声をかけると、キヲンはうんと頷いて目の前の7人組の前を通り過ぎていった。
それを見てナツィたち4人もそれに続いた。
「…」
キヲンとぶつかった人物は去り行く一団を静かに見ていたが、すぐに優しそうな声の人物に琅(ラン)、と呼ばれる。
琅が振り向くと他の6人は既に先へ進もうとしていた。
「行きましょう」
優しそうな声の人物がそう言うと、琅は…あぁと答えて他の皆の方へ向かった。
ちいさなわたしの春の匂い
思い出したら眠れなくなって
いつも書いてた いじけたポエム
誰かの心に刻むように
あの頃わたしの人生は
ちいさな世界 みじかい夜を
ドリップしては ここに記すだけ
誰かの心に刻むように
いつも書いてた いじけたポエム
それが今でも くせになって
ドリップしては ここに記すだけ
誰かの心に刻むように
何もかもうまくいっていたのに
さよならだけが 出来なかった
ぼくも君も、ただ笑ってたのに
何もかも大好きだったのに
さよならだけが 出来ないまま
ぼくも君も、ただよっているんだ
頭のなかにうかぶ言葉は
ぜんぶ君のためだった
あの朝ぼくはすこし泣いたよ
それで君のことぜんぶ忘れるつもりだった
何もかもうまくいっていたのに
さよならだけが 出来なかった
ぼくも君も、ただよっているんだ
うつくしいひとよ
かわいいあなたよ
くしゃみひとつもさせたくないほど
腕のなかのちいさな影すら
なくしたくないほど
頭のなかにうかぶ全てが
そうさ君のためだった
あのあと、ぼくはすこし泣いたよ
なのにふたりはちょっとの寂しさに
負けっぱなしなんだ。
死んでからようやく動き出す。
心臓から指先に至るまで、しっとりと硬く冷たく黴臭い。