「無事でよかったよ」
硫、と琳は笑いかける。
キヲンは呆然と琳の顔を見ていた。
「…ねぇ」
嬉しそうにする琳を前に、不意にキヲンは言う。
琳はどうした?と首を傾げた。
「ボク、みんなの元へ帰らなきゃ…」
「帰るって、おれと再会できたんだからおれたちの元へ帰るんじゃないのか⁇」
キヲンの言葉を遮るように、琳は聞き返す。
キヲンはそういう訳じゃなくてと訂正する。
「ボクには今の仲間や”親“がいるから…」
キヲンがそう言うと、琳は…は?と不思議そうな顔をした。
「今の”親“って…」
お前、何言ってんだ?と琳はポカンとする。
「た、助けてくださいぃ……」
ヒトエはチヒロとエリカに目を向ける。
「分かった、ちょっと待っててね」
エリカが頷き、手にしていた薙刀を構えて駆け寄る。しかし。
「だめぇ」
カミラが尻尾を操り、ヒトエのバランスを崩す。ヒトエはよろめき、カミラの盾になるような位置取りを強いられた。
「だ、駄目だぁ……ヒトエちゃん、ごめん、頑張って!」
「そんなぁ……」
カミラは剣が身体を傷つけるのにも構わず身を捩り、ヒトエと向かい合う。
「ヒトエぇ、ヒトエぇ」
カミラの細い手足がヒトエを絡め取り抱き締める。ヒトエは抵抗しようと藻掻くが、存外強い膂力から抜け出すことができない。
「ヒトエぇ、きるといいんだよ?」
「え、うぇ……?」
「ずばぁーって、きるの。わたしを。わかる?」
「いや、それは……」
「でねぇ、きらないとねぇ……」
カミラが右手を上げ、長く鋭い爪をかしゃかしゃと擦り合わせる。
「わたしがヒトエをきるの」
「っ……!」
ヒトエは一度、瞑目して長く深く息を吐き、再び目を開いた。
「ヒトエ、できる?」
「……や、やる」
「うん、おいで?」
ヒトエが剣を握る手に力を込めたその時、突風が吹き抜け、ヒトエの手から突き刺されたカミラごと、双剣が奪い取られた。
人を尊重し、優しい言葉をかけてくれる。
あなたは常に人を気に掛けている。
そして欲しい言葉をくれる。
優しいね(*^_^*)
そばにいてずっとそばにいなかったものがそこにある。
ひとり。
私は孤独に押しつぶされたことはない。
最初から孤独なのだ。
人間は孤独であり孤独ではないのだ。
夜明け前より
漆黒の静けさ
私の夜明けはすぐそこにあった
夜明けは暗いものではなかった
すぐそこに明るい陽の光が。
カーテンを開けたら
眩しい太陽がそこにあった。