初撃の勢いのままに屋外に出た蒼依から一瞬遅れて、冰華も玄関を出て引き戸をぴしゃりと閉める。それによって、冰華の目にも、家を訪れた存在の外見が映る。
灰色の体表、異常に痩せ細った長い体躯と四肢、長い尾、黒い髪に隠れた顔面、そして額から伸びる2本の捻じれた角。
「こわい! これが“鬼”なの?」
鬼の真横を慌てて駆け抜け、冰華は蒼依の背中に隠れる。
「鬼っぽさは無いけどまぁ……角はあるなぁ」
蒼依の手に合った刀剣は再び溶け、元の3体の人形に戻った。
「とにかくまぁ……」
鬼が態勢を立て直し、二人に向き直る。そこに突撃していた蒼依が跳躍し、鬼の両角を掴んで顔面中央に膝蹴りを叩き込んだ。鬼がよろけたところに、蹴りの反動で浮いた膝を再び打ち込む。再び、更に再び、何度も膝蹴りをぶつけ続ける。
呼吸の合間、僅かに連撃の速度が落ちたその時、前髪の隙間から虚ろな眼が蒼依を捉えた。
「ッ……!」
鬼が動くより早く、蒼依は角から手を放し、鬼の胸板を蹴って距離をとった。
『アァ……全く……効かネェ、ナァ……?』
鬼は首をゴキゴキと回し、ニタリと笑った。
(マジかよ……手応えはあったけど……)
冰華を庇うように位置取りを調整しながら、蒼依は3体の人形を融合させ、“奇混人形”を隣に控えさせる。
鬼が長い腕を緩慢に動かして両手を地面に付き、獲物に飛び掛かろうとする猫のような低い姿勢を取る。蒼依が片腕をわずかに上げて冰華を庇い、“奇混人形”を一歩前進させて盾にする。
次の瞬間。
鬼は両腕両脚をバネのように使い、『真横に』跳躍した。
ドラゴンはかっこいい。
いつか背中に乗ってみたいな。
ユニコーンの背中にも乗ってみたいな