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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑫

「じゃあお前がやれよ、潜龍の」
「何?」
「だから潜龍の、お前がリーダー。私は別に、この寄合さえ完成しちまえば誰が偉いとかはどうでも良いんだよ。だからお前が代表な。お前にとっても都合良いだろ? ちなみに、お前がやらなかった場合、一番不満が出ないであろう青葉ちゃんがやることになるぜ」
「…………分かった、引き受けよう。……で、何をすればいいんだ?」
「知らないよ。お前がテッペンなんだからお前が考えろ。もう私には責任無いからな」
「貴様…………」
結局、平坂さんと種枚さんで今後の方針を固めるということに決まり、残りのメンバーは自由解散ということになった。

市民センターからの帰り道、すっかり暗くなっていた道を白神さんと隣り合って歩く。
「いやぁ、わくわくするなー。ね、千葉さんや?」
「いや、自分は別に、どうとも……」
「んー? 千葉さんも〈五行会〉に入るんだよ?」
至極当然といった顔と口調で、白神さんが言ってきた。
「はい?」
「だってわたし、良さげな人を好きに身内にして良いんでしょ?」
「それは……どうなんだ……?」
「これで千葉さんはわたしのものだね」
「……それも、どうなんですかね……?」

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視える世界を超えて エピソード9:五行  その⑪

一頻り各自で盛り上がり、しばらくしてそれも落ち着いた。
「……さて、そろそろ話が飲み込めたところだろうし、いくつか決めごとをしたいと思うんだが、構わないね?」
種枚さんがそう切り出した。
「あまりトチ狂ったことを言わなければな」
平坂さんが答えた。
「別にお前らみたいなのに不利に働く提案はしないよ」
種枚さんが出した決め事は3つ。
一つ、新入りを引き入れた際には他の4人に報告すること。
一つ、可能な限り相互に連絡を取り、直接面会すること。この際5人全員の集合は努力目標で構わない。
一つ、身内の救援要請には、可能な限り応えること。
「な? 別に悪い話じゃなかったろ?」
「……まあ、そうだな」
平坂さんも納得している様子だった。
「はいはーい、メイさんからこれまた質問」
また白神さんが手を挙げた。
「何だよシラカミメイ」
「この5人で始めるってのは良いんだけど、リーダーとか代表みたいなのっているの?」
この問いには、種枚さんと平坂さん、犬神ちゃんの3人がぴくりと反応した。
「キノコちゃんがリーダーなんじゃないの? 発案者だし」
「馬鹿言え、こんな鬼子の下に就けっていうのか」
「私は正真正銘、ただの人間なんだけどねェ?」
「どこがだ」
また言い合いが始まった。

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視える世界を超えて エピソード9:五行  その⑩

「クサビラさーん、はいはいしつもーん」
白神さんが手を挙げた。
「何だシラカミメイ」
「結成したのは良いけど、この集まりって何か名前とかあったりする?」
「よくぞ聞いてくれた。名前なら考えてあるぜ」
「あ、あるんだー」
「ああ。その名も〈五行会〉」
犬神ちゃんが拍手し、他の人たちも何となくといった感じでそれに続く。
「五行……陰陽五行説のか」
平坂さんが尋ねる。
「そうそれ。土行の犬神ちゃんだろ?」
言いながら、種枚さんは犬神ちゃんを指差す。そこから隣に、隣にと指差す相手を変えながら言葉を続ける。
「金行の青葉ちゃん、水行の潜龍の、火行の私に、木行のシラカミ」
「おい待て俺は名前だけか」
「雷って木行なんだ……」
納得していないのは平坂さんと白神さん。それと、
「え、嘘、俺はのけ者ッスか師匠⁉」
鎌鼬くん。
「あァ? お前を『上』に置いておけるわけ無エだろうが。私に殴られなくても正気を保てるようになってから文句言いやがれ。お前はシラカミの下に就け」
「師匠の下ですらなく⁉」
「お前にガチの妖怪の監視任せてやるってんだよ」
「あ、そーいう……」

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑨

「お前のトコなんかそういうのは『ナシ』だろ? 潜龍の」
振られた平坂さんは無言で頷く。
「野生の才能ってのは意外といるモンだ。現に私もシラカミも、完全フリーだったろ? これを『こっち側』に引き入れて、戦力にできる。しかも、NGは無しだ。来るもの拒まずって感じで」
「えー? 私の時はあんなに殺意バリバリだったのに?」
白神さんが拗ねたように言う。
「お前のせいっつーかお陰でこっちも考えが変わったんだよシラカミメイ」
「むぅ、それならヨシ」
「偉ッそうに……で、私どこまで話したっけ」
「野生の霊感持ちを囲えるってとこまでッス、師匠」
種枚さんの後ろに立ちっぱなしになっていた鎌鼬くんが答えた。
「そうだった。良いか、これには利点が3つある。まずウチの戦力増強。次に、青葉ちゃんや潜龍のみてーな元からある組織に戦力が流せる。そしてもひとつが……潜龍の」
「何だ」
「お前みたいなのは、この寄合に助けられると思うぜ? なんせ、問題児が全員手の届く場所に集まるんだからよ」
「……なるほどな。悪い話でも無いか」
「だろォー? 誰ぞ反対する奴はいるかい?」
種枚さんのその言葉に乗る人はいなかった。全会一致で賛成ってことだろう。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑧

「まあコイツのことはどうでも良いんだよ。見張りも付けるし、何ならお前が直々に目ェ光らせておきゃ良いんだ、潜龍の」
種枚さんの言葉に、不満げながら潜龍さんは納得したようだった。
「さて、この寄合の本質は、『怪異に手の出せない人間の保護』だ。ちょっと偉そうかね?」
「「いや」」
青葉ちゃんと平坂さんが同時に答えた。
「『それ』は“潜龍”の存在意義でもある」
「岩戸家も左に同じく」
「マジかよお前ら。こいつァ都合が良いや」
けらけらと笑い、種枚さんは話を続けた。
「この寄合はこれからどんどんデカくなるぜ、予言する。私ら5人はその天辺に立つのさ」
「はい、1個質問」
青葉ちゃんが手を挙げた。
「何だい青葉ちゃん」
「この寄合を作る意味って何です? 怪異退治なら、正直既にいくつか組織がありますけど、これ以上増える必要ってあるんですかね?」
「ぁー…………」
種枚さんは軽く唸り声をあげ、しばらく目を泳がせ、再び口を開いた。
「まず、この寄合は飽くまで『個人の集まり』だ。勝手と融通が利く。次に、『はぐれ』の霊感持ち、あとはシラカミみてーな奴を好きなように囲える」
「へ? メイさんみたい、とは?」
白神さんが気の抜けた声をあげた。
「『こっち側』に引き込めそうな『そっち側』」
「はーん……なーるほどー」