目覚めると、枕元に、背中に翼をつけた白いノースリーブのワンピース姿の若い女が座っていた。
「その羽は、鵞鳥かな」
「わたし、天使です」
「だろうな」
「お迎えに参りました」
「わたしはまだ死んでいない」
わたしは半身を起こして言った。
「みんなそう言うんですよね。あなたは腸炎が悪化して腹膜炎を起こし、一か月前に死亡したのです」
天使が真顔でこたえた。
「孤独死か……一か月も会社を休んでたら誰か気にして訪ねてきてくれてもよさそうなものだ」
「まったくですね」
「そんなことより君、迎えに来るのが遅すぎやしないか」
「クレームは天国でうかがいます」
「行きたくない。だいいち宗派が違う」
「わたしは亡くなったかたのイメージの投影にすぎません。わたしが西洋の宗教の使いに見えるのはあなたの信心が足りないからです」
「どうせならキリスト教に改宗しておけばよかった。そうすればいま目の前の君のことも喜んで受け入れられたし、礼拝に行ってれば友だちもできて孤独死もまぬがれたかもしれない」
「たらればはやめましょう。死ぬ前まで他者との親密な交流があれば、ひとりで死んでもそれは孤独死ではないというようなことを言った医師もいますよ」
「だからそれがないからこんなことになってんだよ」
「ひとりで死ぬひとはこれからますます増えます。孤独死も当たり前になれば孤独死なんて誰も言わなくなりますよ。むかしは中年の未婚の女性を行き遅れなんて言っていましたがいまは誰も言いません。そもそもあなたはひとりで死ぬのを望んでいたんじゃありませんか」
天使は終始、真顔だった。