「さ、行きますか」
わたしは天使に手を取られ、天に昇った。
「結局死ぬまで彼女ができずじまいだった。せめて死ぬ前に女の子と一緒にどこかに行きたかったな」
「わたしでよければ」
「ぐいぐい来るな」
「時間は半日いただいてますから。引き返しましょう」
天使はそう言って、微笑んだ。美しかった。
「やっぱり肉体はいいな。魂だけだとふわふわしてしまう。君、その翼はどうにかなるのか?」
「収納できます」
音もなく、翼が引っ込んだ。
「さて、出かけるにしても、その格好じゃ寒いかな」
「大丈夫です。温度は感じませんから」
「もうすぐ春とはいえ、ノースリーブのワンピースいっちょうじゃ目立ってしょうがない。わたしのスウェットとトレーナーを貸そう」
天使は躊躇することなく、ワンピースを脱いだ。ワンピースの下は、なにもつけていなかった。身体は、人間の女性のそれと変わらなかった。ブレザーを羽織ると、少しはよそ行きに見えなくもない感じになった。
「どこに行きますか。もうあまり時間がないので遠くへは行けません」
「鎌倉に行こう」
神奈川県に来て初めて江ノ電に乗った。神奈川県に住んだらいつかは乗るのだ。死後に乗るひとはいないだろうが。
カフェに入り、グリーンティーを飲んだ。天使に、味覚はあるのかときいたら、においはわかるとこたえた。
カフェを出てぶらぶらしていると、いつの間にか天使が消えていた。さすが天使、瞬間移動かと思ったらマダム向けの洋品店のウィンドー前でバッグを眺めていた。
「よかったら、プレゼントするよ」
「そんな……悪いですよ。わたしはただ、このピンクがきれいだったから見とれてしまって」
「そんな安もの、わたしにも買えるよ。プレゼントしよう。あの世に金は持って行けないからね」
それから銭洗弁財天に行き、高徳院に行った。瞬間移動で。
部屋に戻ると、デートなどしてしまったぶんかえってこの世に対する未練が込み上げてきた。
「あの、バッグ、ありがとうございました」
「いやいや。じゃ、行くか」
「それじゃわたし、これで失礼します」
「えっ?」
「あなたのことは、上になんとかかけ合ってみます。またいつか会いましょう」
天使はそう言うと翼を広げ、天に帰って行った。白いワンピースを残して。
納豆の精をベースにしたお話の最終章です。こんなよくわからない物語でもちゃんと読んでくれるかたがいると思うといきおいづいて長々書いてしまいました。エピローグは学校掲示板に載せてありますので興味のあるかたはそちらもご覧ください。ありがとうございました。