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ディストピア

中途半端な形の白い月と、目に痛い橙色の街灯と、ヘッドボードの明かりとがせめぎ合って、窓の外をゆく自動車のエンジンにまとめてかき消されるような夜だ。きみの紅色はもう消えかかっている。あしたはぼくかもしれないと 思うことすら不毛な世界だよ。みんないつかはただの とうめい になってしまって、またどこかで新しい紅がうまれるのだと、ずいぶん昔にぼくらは知った。
かみさまが理想を追いかけるひとを嫌うから、きっといまきみは泣いている。凛として伸びたままの背中が影になってぼくを刺したあのときから、ぼくの心臓はすべてきみのものだ。

きみを構成する白と黒と紅の隙間で、耳もとにかがやく夜色が、なによりいっとう、うつくしかった。

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