父は応える。
「そりゃ、イニシエーションなのだから、10年前の、お前と同じような年の子は経験している。」
どうしてあのときもっと詳しく読まなかったのだろう。悔やまれる。
10年前の文献。人間界には関する記述。……思い出せない。
もう父は普通の顔である。
「さて。それでは、決行は今夜だ。」
文献どころの話ではない。
「はい?」
思っていた以上の間の抜けた声が出る。
「あの、お父様。おっしゃっている意味が…」
「満月の夜、人間界に通じる道が開く。来月までここにいるだけの猶予はない。」
――はめられた。
瞬間的に悟った。断る権利もなかったということだ。断る暇をも与えられず、いかなければならない状況に追い込む。酷い手口である。しかしまんまとひっかかってしまったのだから仕方がない。
パプリエールは、父の手の上で踊らされることに決めた。