思いの外、パプリエールは冷静だった。
いつか絵本でみたような家具が備え付けられてはいる部屋。それを見渡す。暖炉はない。シャンデリアも長テーブルも、大きなレースのついたベッドもない。ドレスでいる自分を、家具が場違いであると主張するかのようだ。
「ここが、人間界……」
魔力も感じられない。
「その通りです。」
パプリエールは驚き振り向く。
「私はチャールズと申します。お嬢さまのお付きでございます。」
白髪で長身の青年。ラインは細く、端正な顔立ちのパプリエールを見つめるその目は、青く透き通っていた。
ラフな格好の彼は、お付きというには少し若すぎる気がした。
チャールズは続ける。
「ここは確かに人間界ですが、この部屋自体は人間界特有ではありません。
こういうのは、一般的、というのです。」
パプリエールは不思議そうな顔をする。
「暖炉もシャンデリアも長テーブルも、大きなレースのついたベッドも、あなたが姫という立場だったから存在していたにすぎません。」
まるで心を読んだかのような発言に赤くなる。
「箱入りの世間知らずなお嬢さまには、これから180度違う体験をしていただきます。身の回りのことはご自分で。まさか、私がお嬢さまのきつけをするわけにもいきませんしね。」
怒りと恥ずかしさでさらに赤くなる。
何か言おうとする彼女を、チャールズは制した。
「とりあえず、楽な服へお着替えください。いつまでもドレスではいられないでしょう。1人でも着られるような物ですのでご安心を。」
あちらがあなたの部屋です,そう言われた。
チャールズが話始めてから、パプリエールはまだ一言も発していない。何を言おうとしても無駄、そう悟り、従うことにする。睨み付けると、ふいと背をむけられてしまった。