しかし、とすぐに続ける。
「日常的に起こるわけではないのです。この国は大きなことが起こりづらいと言われているので、使う必要はない。旦那さまは、そうおっしゃっていたのだと思いますよ。
……さて、これくらいでしょうか。」
瑛瑠は思わず叫ぶ。
「待って!肝心なところを聞いていない!
イニシエーション終了は?期間は?情報って何!」
チャールズはあくまで冷静だ。
「落ち着いてください。とりあえず、明日同じような方々を見つけてくればいいでしょう。そうでないと始まりません。」
瑛瑠は睨む。
「――策士。」
「お褒めいただき光栄です。」
やられた。まず、そう思った。
父が隠していたい部分を引き出し、あくまで明るみにしてもいい部分だけ教え、肝心なところを教えないと言う。
やはり、ただのイニシエーションだとはとてもじゃないけど思えない。
きっと、その"情報"とやらが、大人たちの欲しいものなのだろう。
「いつまでここにいなきゃならないの。」
「イニシエーションが終わるまで、ですよ。」
瑛瑠は黙って睨む。時間だけが流れる。
今まで飄々としていたチャールズが、始めて折れた。
「降参です。可愛らしいお顔が台無しですよ。」
「答えて。」
「長くて1年、でしょうか。」
「1年……」
そんなに長い通過儀礼があろうか。その間に成人を迎えてしまう。
イニシエーションが、ただの"イニシエーション"ではないと、確信に変わった。