哲人「では君は、皆が君にもっと感謝してしかるべきだ、そういうのだね」
青年「その通りです」
哲人「しかし、それを自分で言ってしまってはおしまいではないかね」
青年「そういう話ではありません。誰もやらない仕事を仕方なく私が引き受けているというのに、なにもしない外野がとやかく言うのが我慢ならないのです。」
哲人「ほう、仕方なく、と」
青年「はい。そんなに言うなら自分がやれ、なにもしないくせにつべこべ言うな、と言ってやりたいのです」
哲人「いや、君、それは違うよ」
青年「何が違うのですか。何一つ間違ったことは言っていません」
哲人「確かに、君の言っていることは正論だ、しかし...」
青年「そうです、その通りです!私が言っていることは正論ですよ!」
哲人「まあ待ちたまえ。そう、君の言っていることは正論だ。正論は正しい。ゆえに正論と呼ぶのだ。だがしかし、正論を振りかざすのは正しいと言えるかね?」
青年「.........」
哲人「まあそれは別の話としてもだ。君がその仕事に就くとき、本当に抵抗できないほど強制されたのかね?それとも、誰かに頼まれて、君が言うところの『仕方なく』やっているだけなのかね?」
青年「.........後者です、しかし......」
哲人「もしそうであるなら、君こそとやかく言うことはできない。例え断ることができない状況だと君が判断したのだとしても、今の状況を選んだのは、他の誰でもない君なのだ」
青年「そうですがしかし......」
哲人「家族を人質にとられて人を殺したのだとしても、殺人をおかしたのはその人だろう?」
青年「...そ、それは極論ですよ!」
哲人「確かに極論かもしれない。だがね。君が言っているのはそう言うことなのだよ。わかるかい?」
青年「.........」