望である。だから、とびっきりの笑顔で振りかえる。
「おはようございます。」
背中からは彼の声。
「お気楽で羨ましい限りだ。」
振り返るとそこに彼の姿はもうない。
何が何だかさっぱりわからない。彼は何と言った?
『僕を誰だと思って言っている。さすがにわかっただろ?』
ヴァンパイアだ。それも、かなり優秀な。
わかったの示す主語は、瑛瑠だろう。では、目的語は。彼の正体?
"さすがに君でも僕の正体がわかっただろ?"
わかっている。あれだけの残り香でわからない者はいないだろうの意でのさすがに,だろう。
とすれば、あの怒りは何だ。彼の忠告に従わなかったから。ヴァンパイアのアンテナを馬鹿にしたから。そのつもりはなかったが、結果的にそう捉えられたのだ。
優秀なアンテナより、魔力に気付けなかった自分自身の感覚を信じたことに関して、彼は怒っていたのではないか。
そこで少し思考を止める。
なぜ、忠告したのだろう。仮に望が瑛瑠にとって危険だったとして、自分の感覚を信じようと、彼には助ける義理もない。いや、そういった義理があるから忠告もし、怒り、彼のアンテナを信じろと言いたかったのだろうか。