『クリス。ねえ、僕の声がわかるよね?』
クリスだなんて何百年も前の君のことで今はあの頃とは違う君のはずなのに、本当は中身はクリスのままで僕を覚えたままじゃないかと思えてしまって仕方のない僕はつい昔の名前を呼んでしまう。
(うーん)
君は見えない僕にその顔を見せずに、僕の声のことで考え込みながら部屋を片付けていく。
(ごめん、思い出せない)
僕は悔しくなる。
(なんども誓ったんだよ)
僕はここにいるのに。
地上に生まれ変われば前世もあの世にいた時の記憶も消えるというのは、本当に本当のことだった。
(僕だよって何度言ったとしても君はもう二度と僕のことを思い出したりしないんだ)
悲しさがこみ上げた。
涙が溢れる。
(え、、)
僕が見えないはずの君が僕の方を見る。
あの頃とは違う君の黒色の瞳は不安げに揺れ、涙が溢れていた。
僕の感情を自分の中に感じたんだ。
(君は変わらないよね)
どうしようもない悔しさを嬉しさと懐かしさが胸を少しだけ温める。
生まれ変わって姿が変わっても君は君だ。
人にちょっと弱いけど、誰にでも優しい君はあの頃と何一つ何も変わらない。
だけどと、僕は地上にいる僕を気にする。
地上にいる僕は変わっちゃった。
僕は強くなりすぎたね。
僕も地上の僕のことは少し考えてしまうことはある。
強さは人を傷つける為にあるわけじゃないのに時々地上の僕はそれを履き違えてしまうんだ。
それでも僕は僕だから、僕は僕のことを信じるしかない。