巨大積乱雲がふつうの積乱雲になって空はこころなしか高くなり
欄干から見下ろすと
制服姿の君が自転車を押しながら手を振っていた
本当に好きになってしまうとものにしたいという気持ちより嫌われたくないという気持ちのほうが先立ってしまうって君の言葉を思い出し
僕はなすすべなくすべすべの君の焼けてない頬に手をふれるイメージにひたった
落ちこぼれの僕は覚えようとしても覚えられないことばかりなのに忘れようとしたことは覚えている
気づいたら君は僕の後ろにいて
強い風に長い髪をなびかせてた
口に入りそうな髪を僕は指先でよけてやり
ついでに毛先から髪をすいた
髪は毛先からすくのが美容師のやりかたなんだ
うん
知ってた?
うん
ううん
僕のこと好きだろ
うん
ううん
すべてはささいなことだと
すべすべの頬を手の甲で撫でながら思った
大人になったつもりだったが
もやもやがつのってただけだった
もやもやは上昇気流に乗って
来年の積乱雲になるのだそうだ
自転車のベルにはっとし
僕は鞄を肩にかけなおして
バス停に向かった
気だるそうな長い列が
バスに吸い込まれ
マフラーから吐き出された
吐き出された人たちは
上昇気流に乗って雲になり
雨を降らせた
雨に濡れながら僕は
今日は会社を休もうとスマホを取り出した
夏が終わる