0

女心と秋の空[1]

 ガチャッ。
「ただいまー」
「ああ、お帰り」
 ケンジは野菜炒めを作る手を止めずに、玄関に向かって返事をした。ジュージューと油の音がキッチンに響く。
「んー、今日は何?...あ、野菜炒めだー」
「そ。もうすぐできるから用意しといて」
「オッケー」
 ナナミとは同棲をはじめてちょうど一ヵ月だ。深夜の工事現場で働くケンジと、スーパーでバイトするナナミ。夕飯を作る役は、自然とケンジになっていた。
「ご飯炊けたよー」
「ん、よそっといて」
「はーい}
 しかし最近レパートリーが一辺倒になってきている気がする。ずっと同じ料理のローテーションだとさすがに飽きてくるものだ。そろそろ何か変化をつけねば...。
「あ、そうだ、今日はスーパーでお惣菜もらってきたの」
「おっ、いいね、何貰ったの?」
「今日はね、えーと、唐揚げ!」
「おお。んじゃ、それも出しといて」
「はーい」
 出来上がった野菜炒めを大皿によそう。テーブルに置いてからペッパーミルをまわす。
 食べ慣れたものではあるが、我ながらいつもより上出来だ。口のなかに唾が溢れる。
「ケンくん?」

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。