すっかり落ち込んだ雰囲気になってしまったダイニング。このままではまずい、そう思ったケンジは、奥の手を出すことにした。
「ナナ、ごめん。忘れてた訳じゃないんだ」
「......」
「ほら、今日帰りがけに九天堂のプリン買ってきたからさ」
「ホント?!」
ナナミはうつむいていた顔を突然ガバッと上げた。思わず仰け反る。
女心は変わりやすいもんだ。記念日を祝うには一ヵ月は短すぎる、と言ったが、これだけの感情の「変化」があれば、実はそう短いもんではないのかもしれない。少なくとも、彼女にとっては。
満面の笑みでプリンをぱくつくナナミを見ながら、ケンジはそんなことを考えるのだった。