「Trick or treat!!」
君は背後からそういって脅かした。
突然のことに僕は思わず声を上げて驚く。
そんな僕の反応を見て、彼女はけたけたと笑う。
「あはは、キミ、反応最高!Trickの方はようやく成功ね……ん、お菓子、くれないと悪戯しちゃうよ?」
無邪気に笑っていた君は、急に悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらに手を伸ばした。悪戯と一緒にお菓子ももらうつもりらしい。
Trick "and" Treatは反則だよと心の中で呟きながらも、お菓子は持っていなかったので自販機からジュースを買ってあげることにした。
「お、気が利くじゃん。さんきゅ」
と言いながら、彼女は買ったばかりのジュースのふたを開けて、二、三口飲んだ。
僕がこの一連の流れの中で言葉を発さなかったのは、別に何も彼女に思うところがあるとかいう訳ではなかった。実に久しぶりに見る顔だな、と思っていたからである。もう会わないと思っていた人が目の前に現れたというだけで、まして下心を持っていたとか言う色恋の話は論外である。絶対に。
僕の意味ありげな視線に気づいた彼女は何か勘違いしたようで、
「あ、もしかして私の仮装見れなくて残念だった? 」
と言って自分の服を見下ろした。着ていたのは普段着である。
ようやく口を開いた僕は「そうだね、少し残念かな」と答えた。
彼女はふふ、と笑うと、来年はするかもねと言った。
因みに言えば、僕は後ろから脅されても声を出すほどには驚かない。僕が驚いたのは彼女がそこにいたという事実ただ一つである。
彼女が帰っていく時にもう一度確認してみたが、やっぱり彼女の向こう側が透けて見えた。
ハロウィンだからってことかなぁと、僕は去年亡くなった同級生のことを思い出し、心の中でもう一度手を合わせた。
空のペットボトルが、ゴミ箱にひとつ捨てられていた。