[ガルタのパン屋]の営業時間も終わって、明日の準備をしている頃。
「アーネスト、ちょっと来い」
不意に、ガルタに呼ばれた。朝の遅刻の件だろうか。またこってり絞られんだろうなあ、等と考えながら、厨房の奥にある小部屋に入る。
「...何でしょう、ガルタさん」
「今朝はどうして遅れた。珍しいじゃないか、いつも俺より先にここに来るのによ」
「すいません」
「怒ってる訳じゃない。理由を聞いておきたいと思ってな」
「はあ...それが、夢を見たんでして」
「夢、なあ」
「ええ、ひどい夢でした」
ガルタはなぜか訳知り顔のようである。気のせいか?
「どんな夢だった」
「それが全く覚えてないんです。ひどく恐ろしい夢だったことはしっかり覚えてるんですが」
「ふん...そうか。まあそんなことはもうどうでもいい。それよりお前......何かしたのか?」
アーネストは首をかしげた。ガルタは何の話をしてるんだ?全く見当もつかない。一体なんのことだろう。
「どういう意味ですか、僕がなんかしましたか?」
「いやな、昨日のことなんだ。お前が帰ったあと、俺はまだ暫く仕込みを続けていたんだ。したら、突然ドアが開いて、数人の兵士が入ってきたんだ」
「!」
「そりゃあ驚いたよ。もうとっくに店は閉めていたから、何のようですか、と聞いたんだ」
ガルタのことだ、きっとそんな穏便に訊ねたのではないだろう。アーネストはそう思った。
「そしたら、その兵士たちはお互いに顔を見合わせて、うちの一人がこう言ったんだ」
『アーネスト・イナイグム・アレフはいるか。』
アーネストは怪訝な顔をした。なんだそれは?フルネームで訊いた、と言うことは、たぶん僕の知り合いじゃない。
「怪しいと思うだろ?俺も何がなんだかわからなかった。で、もちろん俺はいない、と答えた。するとその兵士はこの手紙を寄越したんだ」
そう言うとガルタは一通の手紙を取り出した。