1

オダマキ

彼女がオーディションに落ちた。
話によれば、彼女よりも演技力があって綺麗な人がそれこそ掃いて捨てるほどいたらしい。僕は彼女がそのオーディションにすべてをかけていたことを知っていた。
オーディションの次の日、彼女はそれはそれはひどい顔をしていた。どうしたんだ、大丈夫かい?そう聞いても、大丈夫、そう答えるだけだった。

それから彼女は、本当に糸の切れた操り人形のようになってしまった。夢を語る度にあれほど輝いていたその両目は、すっかり濁って伏しがちになってしまった。日に日に弱っていくように見える彼女は、次第に僕の話も聞いてくれなくなっていった。

ある日、僕は彼女の家に行った。その手には一輪の花。手紙を書こうと思ったけど、僕は文章を書くのが下手だった。僕はその真っ赤な花を、一言だけ添えたカードと一緒にポストへ入れた。

次の日、彼女がいつもとは違う、すごい早足でこちらに近づいてくるのが見えた。僕は彼女が元気になったのかなと思って嬉しくなったが、すぐにそうでないことに気づいた。
彼女は今までに見たことのないほどその目に涙をためて、怒りをその拳にためていた。その手には、一輪のオダマキ。
どういうつもりなの、どういうつもりってなんだよ、僕は君を心配して、人のことをバカにするんじゃないわよ!!!バカになんかしてない、僕は、もういいわよ!!!
彼女はそのオダマキを僕の足元に投げつけていってしまった。僕はただ、呆然と佇むしかなかった。

それから彼女は、めっきり姿を見せなくなった。今彼女がどうしているのか、僕は知らない。



オダマキの花言葉《愚か》











赤いオダマキの花言葉《心配して震えています》

  • 花言葉のポエム
  • すれ違い
レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。