だったら良い日にしなきゃ、と思う。でも無理に何もしなくても、きらきらの水たまりをのせたマンションの屋上に、朝の風。見渡す僕の街は まぶしくてまぶしくて、今日はもう良い日に違いなかった。
自分のために花でも買ってしまおうか。少し散財して欲しかったものを僕宛てに贈るなんてどうだろう。
でもやっぱり、誰かからのおめでとうが欲しいや。
そういえば、夢の国は誕生日に行くとみんなからおめでとうを言ってもらえる場所だという話を聞いたことがある。早速僕は新幹線と電車にのって、夢の国に向かった。
噂どおり、夢の国はみんながみんな夢の国にいることを楽しんでいる夢の国だった。現実を忘れることに、ちょっと必死なくらいに。
たくさんの人で溢れるパーク内を愉快な音楽と風船と夢が飛び交う。
とっても素敵なのに、不思議なことがひとつ。誰もおめでとうを言ってくれないのだ。
ふと隣でアトラクションの列に並んでいる少年を見ると、なにやら特別な名札をつけていた。名札はHAPPY BIRTHDAYの文字と、お馴染みのキャラクターたちで縁取られている。なるほど、あれがないと祝ってもらえないのか。
どこで名札をもらえるのか聞こうとしたとき、少年の手から、するりと風船が旅立つ。
あ。手をのばして、掴んだ!と思ったのに。風船の紐は僕の手をすり抜ける。追いかけていく少年も、僕の身体をすり抜けた。あれれ。
思い出した。僕は死んだんだった。