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This is the way.[Ahnest]12

「大丈夫ですよ、奥さん。僕だって冬の山の危険性ぐらいわかってますし、何より僕一人じゃないですから」
そう言ってアーネストは横を見た。視線の先には、路肩に座り込んで木切れをナイフで削る黒い目の少女。
「シェキナ、そろそろ行くぞ。支度は、良いのか?」
「ん、ええいいわよ、アーネスト。いつでも」
シェキナと呼ばれた少女は、短いブルネットの髪をかき上げて言った。
シェキナ・アビスタシ。アーネストと同じソルコム経済学修学院に通う貸馬屋の娘だ。
そう、その貸馬屋とは他ならぬあの貸馬屋である。馬は貸せねえが、うちの娘なら貸してやるよ、わっはっは!と言って、連れていくように言ってきた。シェキナ本人も大してまんざらでもない顔をして、一度ケンティライムに行ってみたかったの、なんて顔を赤らめながら言うもんだからたまったもんじゃない。
接点がなかったわけではない。同じ講義も幾つか取っていたし、一緒にお茶したこともある。しかし、それだけだった。アーネストは彼女のことを何も知らなかった。
なんでこんなことになってしまったんだろう。とれだけトホと嘆いても、流石に今から帰ってくれなんて言えない。
ただ一つ幸運だとすれば、彼女は何度か徒歩でかの山脈を越えたことがあることだった。しかしその彼女も冬のアイネ・マウアは初めてらしい。大丈夫か?
「あんまり遅くなっても名残惜しくなるだけだし、もう行きます」
「そうか。気を付けろよ、アーネスト」
「わかってますよ、ライネンさん」
「あ、そうだ、」
「?なんですか」
「アーネスト」
「はい」
「どさくさに紛れて押し倒したりなんか「んなことしませんよッ!!!」
さっきからライネンがニヤニヤしていたのはそのせいか。
「アーネ、行っちゃう?」
その腕に抱かれているカルクは、対照的にしょんぼりとした顔をしている。アーネストはその頭を撫でた。
「大丈夫、兄ちゃんすぐ戻ってくるからな」
カルクはこくりとうなずく。アーネストはその顔にニッと笑いかけると、矢筒と弓、肩掛け鞄を担いだ。
「それじゃあ、行ってきます!」
二人の過酷な山越えの旅が始まった。

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  • レスありがとうございます!
    そんな褒めてくださってありがとうございます( ..)"
    memento moriさんこそめっちゃ長く書かれてて凄いです!私は長く書くとすぐ矛盾が生じてしまうので短めのしか書けなくて(笑)
    今後ポエム掲示板や学校掲示板で書き初めと終わりを募集してそれで書いていくという勝手な企画を始めようと思うのでその時はぜひお願いします!