「ただいま~」
誰もいない家にこうしてただいまを言うのがイチゴの習慣だ。
パパとママは共働きだから、昼間はいない。兄弟姉妹もいないから、一番最初にこの家に帰ってくるのは、イチゴだ。
誰もいないリビングを通り抜け、自室に入った時、ふと姿見が目に留まった。
いつからこの家にあるのかわからない姿見にうつった自分を見て、イチゴはポツンとつぶやいた。
「この制服、悪くはないんだけどねぇ~」
茶色のセーラーブレザーを眺めつつ、あとこの制服を着るのは数か月もないんだよな…と思った。
(高校は、これ以上に可愛い制服の学校がいいな!)
心の中で、そんなことをつぶやいた。
そういえば、去年のこの時期も、姿見を眺めて考えたこと、あったよね?
そんなことが、イチゴの頭の中をよぎった。さて…なんだっけ…?
「あ!」
10秒ぐらいして、イチゴはちょっと慌てた様子でクローゼットを開いた。
(確かここにあったよね⁇)
もしかしたらなくしてるかもと不安になったけれど、ちゃんと探し物は出てきた。
「あったあった」
それはお気に入りのベレー帽。去年のフェスで身に着けたものだ。
当時ハマってしまったアイドルグループの子が、似たようなのを持ってたから、真似して買ったベレー帽。
実際にかぶる機会は少なかったけれど、数あるイチゴのお気に入りのひとつだ。
これを去年のフェスでかぶっていったとき、わりと混み合っていた会場で、うっかり落としちゃったんだよね…
落ちたのをすぐ拾ってくれたのは、そう…
そんなことを考えていると、思わず笑いそうになった。
あの子、そう、あの彼。メガネのあの子。
「また、会えるよねっ!」
そんな独り言をつぶやいてから、イチゴは立ち上がって、机の上のスマホを手に取った。
そして、帽子をかぶってから、パシッと一枚。
その写真を、あのグループLINEにあげた。こんな一言とともに。
「25日、これかぶっていくからね!」
思ったよりサクサク書けた…