「なあ、多々良木。祭りにお面っていうのはやはりどこの世界でも共通なのか?」
木村が指を指した方向にはお面屋がある。
今日は祭日であり、そのお面屋の前では着物姿の子供が母親にお面を買ってもらっている。多々良木はしばらくその様子を眺めてから、言った。
「まあ、定番だよな。お面」
「妖怪がお面を被って、なにか楽しいのだろうか」
お面を買ってもらっていた少女には、狐の耳と尻尾がついていた。そして隣を歩く多々良木には鬼の角が生えている。
「どういう意味だ?」
「そのまんま。妖怪が妖怪のお面被って何が楽しいわけ?」
件のお面屋で売られているのは妖怪のお面である。妖怪のお面を妖怪が買って妖怪に化けるなど、変な話である。
「そりゃあれだろ。”妖怪じゃない奴”が来ても祭りを歩けるようにだろ」
「つまり?」
「つまり妖怪と”妖怪じゃない奴”――人間はひと目見て区別できるだろ?それじゃこの世に来た人間は祭りを楽しめない。なんたって人間は空想上の生き物だぜ?奇怪な目で見られるに決まってる。だからお面を被ってひと目で判断できないようにしてるんだ」
「へぇ」
「昔ばあちゃんから聞いた話だ。木村もなんか被ってみるか?」
「ああ。それじゃあ鬼の面、かな」
「おっ。俺と同じ種族になるってぇか。はは。いいな。んじゃ買ってくるわ」
「多々良木」
「なんだ?」
「ありがとな」
「いいってことよ。だからちゃんと祭り楽しめよ」
「ああ」
空想上の生き物が頷いた。
〜〜〜
妖怪は日本人が様々な現象に人格を与えたもの、と思っています。
この物語、舞台が妖怪の世界なのですが、まるまる人間の世界に置き換えるとって思うとわくわくしませんか? 祭りでお面をかぶっている人の中に妖怪が……。まあまつりでお面被ってる人なんて見たことありませんがね。
すごいです。。
流石としかいえないですねもう。
その発想はなかったです。
ちなみに狐のお面とか良いですよね。