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ある一生

少年は、空を飛びたかった。
空を飛ぶための大きな羽根が欲しかった。
少年は、少しずつしか変わらない毎日に退屈していた。
そんな毎日から抜け出したかった。

少しして少年は青年になり、やがて大人になった。
少年はもう少年ではなく、男だった。
男は仕事に就き、家族を持った。
男は毎日の慌ただしく、忙しない生活におわれていた。
いつしか男は空を飛びたいという夢を忘れてしまった。

いつのまにか髪は白くなり、男はひとりになっていた。
子どもは家を出て行き、親しいひとは皆亡くなっていた。
あるとき、男は自分が少年だった頃の夢を思い出した。
男は、自分が空を飛びたかったのだと思い出した。
男は空を飛ぶことにした。
ある晴れた日の昼下がり、男は空を目掛けて跳んだ。
背中には大きな羽根が生えていた。
男は空を飛んだ。

そしてそのまま、青空の向こうに見えなくなってしまった。

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