2

放課後の第二面談室[3]

一瞬だけ、男と目があった気がしました。私はその鋭い眼光に睨まれ、射竦められてしまいました。しかし、彼は私など気にも留めていなかったのでしょう、私にくるりと背を向け、次の駅で開く側の扉をじぃっと見つめていました。そうです。お察しの通り、その次の駅が、私の乗換駅だったんです。
人の多い駅でしたから、彼がその駅で降りることに何も不可解なことなど無かったのですが、ああ、この人も次で降りるのか、なんかやだな、等と考えておりました。
そうこうしているうちに、電車は駅のホームへと滑り込みました。ホームにはたくさんの人が並んでたっていました。車内で座席に座っていた人たちも、十数人が立ち上がりました。そのときは何も思わなかったのですが、思い返せばあのとき、男はしきりに肩からさげた鞄の中身を漁っていました。それが本当に私の想像していた通りだったとは、思いたくありません。
電車が些か荒っぽく止まり、ドアが開くや否や、その男は隙間をこじ開けるようにして外へ飛び出しました。それに続いて、他の乗客たちも降車し始めました。するとそのとき、駆け出したその男が、ピタリ、と足を止めました。そしてキョロキョロと辺りを見回すと、並んでいる列などお構いなしに、またドアの方へ、人を掻き分けて戻ってきたのです。なんだ、降りる駅を間違えたのか、そう思いました。車内でも彼はそわそわしっぱなしだったので、焦るあまりに間違えてしまったのだと、そう考えたのです。
その男は私の横をすり抜けようとしました。彼とすれ違い様に、私は彼と肩がぶつかりました。そのとき、私の脚に、男の鞄が当たりました。
「痛っ」
それは衝撃の痛みなどではなく、確かに刃物で切られたような痛みでした。痛んだところを撫でると、微かに血がついていました。慌てて私は振り返りました。すると、バチリと男と目があったので、私は驚きました。男は、何故かニヤリと笑うと(それはそれは不器用な笑みでした)、また向き直って電車に乗りました。そのとき、男の鞄の底の辺りに、キラリと光る金属のようなものが見えたのは、気のせいではなかったと思います。
その後男がどうなったのか、私は知りません。

学校につくと、私は保健室に行って傷の手当てをしてもらいました。それで遅れたんです。なんですか、先生。そんな真っ青な顔をして。

【終わり】

  • 短編
  • 放課後の第二面談室
レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。