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月の涙 2

 写真集は探せばすぐ見つかるし、インターネットなら画像検索でいくらだって画像を見れる。何故家を出てまで見に行かなければならないのだろう。
「絶対生で見た方がきれいじゃん」
というのが我が妹の意見だった。何でも妹の友達が去年月涙花を見に行ったらしく、その時えらく感動したとか何とかで、学校が明けてからその感動を妹にまくしたてるように話したらしい。で、それに感化されて今年見に行きたい、と。
 しかし我が妹は現在小学六年生。五歳差の十七歳の私から見てもまだまだ子供であり、実際月涙花が咲く時間帯は小学生が一人で出歩いていい時間ではない。親に頼めばいいのではという疑問がちらついたが、そういえば両親は二人で旅行中だった。なるほどそれで保護者責任が付く私に頼んだという訳か。しかし、
「いや、私もアウトだから」
 町の条例で定められている高校生の外出制限は夜の十一時まで。それ以降に外出しているところを見つかると補導の対象となる。月涙花がいつ咲き始めるのか分からない中でこの数字はやや心もとない。
「しかも私、家で本読まないといけないんですけど」
これは義務です、と言わんばかりに少し語気を高めて言う。群生地の氷枯村はこの街から北方、大分離れた山の中にある。観光地であり都市から直通のバスが通ってるとはいえ、今客の数はピークだろう。バスに乗れない可能性が高い。バスを使わないで行くにも電車とローカルバスをいくつも乗り継いで行くしかない。バイトで貯めた金があるとはいえ出費が痛い。何より乗り物の中で本を読むと酔うので無理。
「そんなわけで無理です。あ、従兄の圭一さん呼んだ……ら……」

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