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月の涙 4

 妹に半ば強引に氷枯村行きを決めさせられてから数分後。私は読んでいた本に丁寧に栞を挟みこみ圭一さんと連絡をとっていた。年始に親戚が一同に集まった時に連絡先を交換しておいてよかった。この計画は圭一さんが一緒に来てくれるかどうかですべてが決まる。果たして彼から来た返事は、
「……OKだって」
少しだけ、圭一さん断ってくれないかなという思いがないでもなかったために私の呟き声にも似た声はあまりよく響かなかったが、妹には伝わったようだ。
「ほんと?」
「ほんとほんと。ほら」
スマホの画面を妹に向ける。妹は一瞬だけ頬が緩みそうになったがすぐに引き締めた。完全には無理だったようでちょっとにやついて見えるけど。なぜ笑みをこらえるのだろう?
 私たちは次に、どうやって氷枯村まで行くかを検討した。この時点で圭一さんにも電話越しに話し合いに参加してもらった。
「久しぶり、二人とも。元気してた?」
「お久しぶりです、圭一さん。ええ、元気でした。そちらもお変わりないようで」
「はは、堅苦しい挨拶はやめとこう。性に合わないみたいだ」
圭一さんはとても親しみやすい人で、大学でも多くの友人を持っていると聞く。どんな人にも適切な距離感を知っているようで少し羨ましい。
「君たちの親には連絡したのか?」
「はい。圭一さんと一緒なら大丈夫だろう、と」
「これは責任重大だな」
もう一度、ははと笑った。爽やかだな。
 話し合いの結果、直通バスは難しいとのことだったので電車とバスを乗り継いで行くことにした。費用は一部圭一さんが出してくれるとのこと。
「本当にありがとうございます」
「いいって。僕も月涙花見てみたいし。写真でしか見たことないから楽しみだよ」
「そうですか……」
「……なんだい? あまり楽しそうに聞こえないけれど」
 

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