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月の涙 5

「……なんだい? あまり楽しそうに聞こえないけれど」

「いえ。私は家で本が読みたかったな、と」
妹に聞かれると気まずい雰囲気になりかねないが、現在妹は席を外している。
「ああ、そういえば君はそういう人だったっけ」
懐かしむように圭一さんが言う。お正月の時にも私は本を持ち出して一人読んでいたのを見られたのだろう。
「妹さん、……陽波ちゃんだっけ。渾身のお願いに付き合ってあげてもいいんじゃない。小学生最後の夏休みなんだし」
「……そうですが」
「ですが?」
「…………ですが私の事情も少し考えてほしかったなって。もう少し前に言うとかしてくれた方がよかったな、なんて」
我儘でしょうか、とは言えなかった。それは姉として言ってはいけないと思ったから。代わりに自嘲的に笑ってごまかす。
「すみません、空気乱しちゃって。ほんとは少し楽しみです。……あ、明日の朝早く迎えに来てくれるんですよね。何から何までありがとうございます」
「いや、いいよ」
圭一さんはまたははと笑った。しかしそこに少しだけ憐憫のような何かが混じっていたように感じたのは気のせいなのだろうか。

***
今週はここまでです。

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