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月の涙 8

 「トイレ行きたい」
 そう妹が言い出したのは、車で進む予定の道のりのちょうど半分くらいに差し掛かったところだった。圭一さんがカーナビでSAの場所を探す。
「次のサービスエリアに寄るから、それまでもう少し我慢してて」
 ほどなくしてSAに着いた。

 SAに着くなり妹は走り出そうとしたが引きとめ、小学生の女の子ひとりでは不安だということで圭一さんも一緒についていくことになった。
「君はついてこなくていいのかい?」
圭一さんが車の窓越しにこちらに尋ねる。
「私は――」
鞄の中から一冊の本を取り出し、栞の挟まっているページを開いた。
「――本を読んでますので。妹のこと、お願いしますね」
私は朝以来ようやく本の世界に飛び込むことができた。
 主人公の女がとある男性に恋をして、さてこれからどのように近づこうかというところで顔を上げた。どのくらいの時間読んでいたのだろうか。時計を見てみると妹と圭一さんが出てから20分が経っていた。私の読書の体力はまだまだ有り余っているが、一応旅の途中ということもありあまり集中できなかったみたいだ。
(それにしても……)
圭一さんたちが遅い。さすがに20分もトイレに籠っていることなどないだろうから、まさか圭一さんが妹に何か買ってあげているのではと思っていたら、圭一さんが帰ってきた。
 慌てた様子で。

 「大変だ!!」

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