どこにそんな食べ物があったのか、調理器具があったのか。出されたスープとパンを見て、彼は思った。野菜や腸詰めの入ったスープも、少し固いが塩気のあるパンも凄く美味しかった。空腹だったと言うこともあったが、それを満たして余りある満足感を得た。食べ終わった頃には、さっき抱いた疑問も忘れてしまった。そして彼は、別の疑問を抱いていた。
「君は、ここに一人でいるのかい」
「ええ、まあ」
「いつから?」
「さあ、いつからだったかしら。覚えてないよ」
「どうしてこんな場所に」
暫く彼女は黙っていた。そして、
「あまり女性を詮索するものではないのよ」
そう言って、静かに食器を片付けた。その目が、何故か寂しそうだったことに、彼は気付いていた。
その夜。二人は火鉢に火を熾して談笑した。彼の村のこと、彼女の暮らしのこと、いろんな話をした。それでも、その所々で彼女の目が寂しげに光るのを、彼は気にかけていた。
「そう言えば、あの花は何だったんだい?」
「...花?」
「そう、君が帰ってきたときに抱えていたじゃないか」
「ああ...。なんでもないのよ。気にしないで」
彼女はまた目を伏せた。訊ねない方が良いのだろうか。そう思っていると、彼女が静かに切り出した。
「...あれはね、」
そのとき、窓がガタガタガタガタ!!!と鳴り出した。吹雪だ。アーゼンは窓の外を見つめる。窓の外は酷い様子だった。風が唸る。雪が殴り付ける。暗闇も合わさって恐ろしいほどだった。
と、ふいに彼は顔を挟まれて、彼女の方を向かされた。と同時に、彼女は心底驚いたような顔をした。
「あなた、真っ青じゃないの!待ってて、今布団敷くから」
「僕は平気だよ」
「何言ってんの、そんな顔して!ほら、窓から離れて!」
知らぬ間に、アーゼンは吹雪を酷く怖れるようになってしまっていた。気付けば彼の体は寒くもないのにガタガタと震えていた。意思とは反して震え続ける腕を見つめながら、彼は呆然としていた。
あれよあれよという間に、アーゼンは布団に放り込まれた。そしてその横に、彼女が座り込む。