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雪山[3]

 「実はね、あなたのような人を、何人も見てきたの。この山の吹雪は、並大抵のものとは違う。心に直接恐怖を植え付けるの。」
 やはり彼女は寂しそうに喋る。
 「大丈夫。明日には吹雪もやむわ。そしてあなたも、行くべきところに行くの。」
 そこで彼女は一息おいて、言った。
 「そしてまた、私は独り」
 彼女は今にも泣き出しそうだった。アーゼンは、なんと声をかけたら良いかわからなかった。
 「そんなことないよ、きっと僕はまたここを通るから」
 「ダメなの!」
 ビクッ、とアーゼンは肩を震わせた。
 「もうあなたはここに戻ってこられない。そういう呪いなの。ここに来た人はみんなそう言ったわ。戻ってくるって。でも来なかった。この呪いを乗り越えてくれる人はいなかったの。そしてきっとあなたも同じ。」
 彼女は堪えきれずに泣き出した。
 「それでも優しくせずにはいられないの。私は永遠にここで独り。だから、あなたのような人は私の唯一の生きる理由なの」
 そう言うと、彼女は向こうを向いてしまった。吹雪の唸りが、ただ小屋の中に響いていた。

 夜が明けると、吹雪はすっかりやんでいた。ガバリ、とアーゼンが起き上がると、そこにはもうあの女性はいなかった。そして彼女の名前を聞かなかったことを、彼は酷く後悔した。
 彼の足はもうすっかりよくなっていた。身支度を整えて小屋を出る、前に、振り替えって小屋を見渡した。窓のそばに置かれた花瓶にバラが一輪だけ差してあった。

[了]

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