0

月の涙 16

 老婆は私が欲しい本をすぐに見つけ出した。これだけの本が雑多に散らばっている中ですぐには見つからないだろうと高をくくっていたものだから、「ほぅれ。こいつか?」と言われてまさにその本を差し出された時には再三驚いた。差し出す姿が超かっこよかった。私は敬意を込めて彼女のことを「寂れ本屋の魔女」と呼ぶことに決めた。
 寂れ本屋の魔女はカウンターに戻る途中、私にいくつかのことを話した。
 ――最近はなぁ、この店にも若ぇモンが来なくなって寂しかったから、お嬢ちゃんが見えたときにゃ思わず声かけちまったよ。久しぶりに若いお客さんだった。ここに来るやつぁ大抵年いったおじいちゃんばっかだから、お嬢ちゃんみたいなのが来たのが嬉しくってさ。……この店もじきに閉めることになってんだ。アタシも年だからな……。何も哀しい話じゃねぇさ。そんな顔しないでくれ。あとぁのんびりと暮らすさ……。
 この店は、何年続いたのだろうか。私は想いを馳せながら目の前を行く寂れ本屋の魔女に黙々とついていった。

 文庫本サイズで720円だった。私は財布の中からきっかりその金額分の硬貨を出すと、寂れ本屋の魔女の掌に差し出した。寂れ本屋の魔女の手は大きくて暖かかった。
「これからこいつを見に行くのかい?」
魔女は文庫本の表紙を指さして問いかけてきた。そこには黒の背景によく映える、冴え冴えとした青の可憐な花――月涙花が見事に描かれていた。『月の涙 著 佐崎重宜』。
「ええ。実は私、小さい妹がいるんですけれど。……あそこでお兄さんと一緒に本を眺めている女の子です。それで私の妹が突然これを見たいと言い出しまして」
「へえ。可愛い嬢ちゃんだなや」
「私の自慢の妹ですから。……本当は私、最初はやる気じゃなかったんですよ。正直言って面倒ですし。写真とか今じゃ世界中で見れますし。――」

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。