始
かなしいね
涙がこぼれていたはずなのに
それがどうしてなのかを忘れてしまうのは
やっぱり、かなしいね
そんな
”かなしい”
は空っぽで
なみだやあめが落ちないのも
やっぱりかなしいんだ
中
いつまでも
いついつまでも
同じことで泣いていたいというのは
この願いは、神さま
どうして許されないのでしょうか
上を向かないと涙がこぼれてしまうのは
下を、後ろを向いてはいけないことの証左
そう、涙は
こぼしてはならないのです
ひとつひとつが足もとを濡らして
滑ってしまいますから
やがて
溺れてしまいますから
花がしおで枯れてしまいますでしょう
終
かなしい”かなしみ”を
わたしは、神さま
忘れとうございません
かなしいならかなしいままで
いいじゃないか
痛みと、傷みと、わずかな過去さえあれば
わたし達は生きていけるのです
パンなどはいりません
一汁三菜もいりません
わずかな糧でくちびるを濡らせば
いまはそれで満足
わたしは痩せ衰えますが
それをして肥えているというのではありませんか
留
涙が流れていれば
わたしの中で鮮血のように飛び散った悲劇を
その美しいさまを
そして僅かなあなたの愛憎を
こころに留めておくことができる
涙を犠牲にして
それでも人間は脆いことに
ニンゲンの”さが”で
きれいに洗い流してしまうから
それをかなしいと呼ぶのです
それを虚しいと呼ぶのです