「そういえばおにーさん」
「何だ?」
「私、おにーさんの名前知らないのですよ」
「奇遇だな。僕もお前の名を知らない」
「これまでは『おにーさん』と『おい、お前』で呼びあってましたからねぇ」
「お前は何という名前なんだ?人に尋ねる前にまず自分が名乗れとよく言うだろう」
「そうですねぇ……。じゃあ『ショーコ』とでも呼んでください」
「偽名かよ」
「本名は嫌いなので」
「そうか。しかし本名を明かさないような人間には名乗れないな」
「じゃあモノノベさんで」
「は?」
「とりあえずの名前です。お互いにだけ分かる名前ってことでどうでしょう」
「何故物部?」
「『物』質至上主義からとりました」
「そこか…。じゃあお前の名前はどこから来たんだ?」
「最初に会ったとき、私に『娼婦か何かか?』って訊いてきましたよね。そこからとりました」
「止めとけ。その由来はあまり良くない」
「じゃあモノノベさんが私の名前をつけてください」
「嫌だね。これ以上お前との縁を強くしてたまるか」
「3ヶ月も一緒に居て何を言いますか」
「うげえ。もうそんなになってたのか。しかしあれはお前が『愛を探すのを手伝ってください』なんておかしなこと言うから」
「もう見つかったと話した気がするのですが」
「そういえばそうだったな。じゃあもうお前と居なくて良いわけだ」
「そうですね……」
「ええいそんな寂しそうな面をするな!何だか悪いことをしている気になる」
「やっぱりあなた、良い人ですよね。もしかして私のこと結構気に入ってたりします?」
「まあ、会ったときお前が言った『物質的な愛』は結構良い言葉だと思ったが」