「私はここに問題を抱えている」
桜木ノアと名乗った少女はそう言った。右手で銃の形を作り、それを自らの頭に突きつけながら。
入学式後のLHR。まだ様子を伺っている生徒が多く、好きなものがなんだとか、誕生日はいつだとか、当たり障りないことを口にしていた中、彼女はそう言い放った。
そして、クラスメイトの大半が思ったことだろう。『たしかに頭がおかしそうだ』と。
知り合って間もない生徒たちが皆一様に呆気にとられる中で、彼女は「けれど!」と続けた。
「私はここでどうにか生きてやるつもりだから。よろしく」
念のため言っておくが、サバイバルゲームやデスゲームは実施されていない。ここはなんの特徴もないただの学校である。それにも関わらず、彼女は『生きてやる』と宣言した。
案の定、俺を含むクラスメイトは皆ポカンとしたまま、席に戻っていく桜木ノアを見送った。
桜木ノアが自己紹介をしたのは、まだクラスメイトの半数にさしかかろうかという時だったのだが、全員の自己紹介が終わってもなお、彼女の言葉は妙に記憶に残っていた。
実は、彼女はその時、自分の決意を込めて『生きてやる』と宣言していたのだ。だから、それは自己紹介と言うより、決意表明と言った方が正しかった。
だがもちろん、この時の俺はそんなことを知るよしもない。