会社帰り、ふと、靴を新調しようと思い立ち、G駅で降りた。たしか老舗のシューズショップが駅周辺にあったはずだと歩いていると、それらしき店が見つかった。
「いらっしゃいませ」
アーティストふうの女性が元気よく声をかけてきた。店内を見まわして俺は首をかしげた。
「すみません、この店は……」
「当店はガラスの靴専門店です。わたしは職人兼オーナーの、シンデレラ佐々木と申します。ハイヒール、ローヒール、コインローファー、スリッポン、モカシン、ウイングチップ、ストレートチップ、スニーカー、とにかくすべての靴がガラスで作られております。ご覧になっていってくださったら幸いでございます。どうぞごゆっくり」
俺はウイングチップをじっくりとながめた。ちゃんとガラスを貼り合わせて作られている。
「ひもは何でできてるの?」
「もちろんガラスでございます。グラスファイバーで作りました。スニーカーの生地もグラスファイバーで織られたものです」
「サイズはあるのかな。二六センチなんだけど」
「サイズはすべてワンサイズだけなんですよね。履いてみてフィットしたらラッキー、みたいな」
「ほんとのシンデレラサイズだね。……このスニーカー、履いてみても」
「履くと皮膚が切れます。ガラス繊維ですから」
「……履けないんじゃ意味ないでしょ。ちなみにいくら?」
「そちらのスニーカーは七八万円になります」
「さすがに手が出ないな。邪魔したね。どうも」
「じゃあ七八〇〇円でいいです」
「ずいぶん下がったな」
「開店してから一年になるんですけどトータルでまだ二足しか売れてないんで」
「投げ売りじゃないか。その二足は、定価で売ったの?」
「もちろんです」