妹と圭一さんはすでに店外に出ていたようで、しかしさほど待っていたようでもなかった。さしずめついさっき出てきた、というところだろう。
ふたりは何か話しているようで、店から出てきた私には気づかなかった。
「目当てのものは買えたかい?」
私がふたりに近づくと圭一さんが気付いた。隣を見ると陽波が小さな子袋を持っている。察するに何か買ってもらったようだ。後で礼を言わねば。
「ええ、おかげさまで。時間は大丈夫ですか?」
「……問題ないよ。十分間に合う」
圭一さんは腕時計を確認する。ちらりと見えた時計はいかにも大学生っぽい、大人な感じのデザインだった。少々イレギュラーな予定を詰めてもらったわけだが、どうやら計画に支障はないらしい。そのことにほっとすると今度は妹のことが気になる。私は陽波に視線を合わせると、何買ってもらったの? と訊いた。しかし彼女はただにんまりと笑うだけでなにも答えない。
「なんでも”お姉ちゃんには秘密”なんだとさ」
圭一さんが面白がるように教えてくれた。姉に秘密にするものとは何だろう。少なくとも圭一さんが妹に買い与えてもいいと判断したものなのだろうけど。
「漫画とかでしょうか?」
陽波は文字ばっかりの本は読まないが、絵本や漫画なら好んで読む。気になる漫画でもあったのかと思ったが……。
「さあね。直接教えてもらいなよ」
「できないから聞いてるんですけど……」
さっき”秘密”といったばかりではないか。嫌味な笑いをしている圭一さんを軽く睨んでおく。
まあいずれ分かるんじゃないのと曖昧な答えを出す圭一さんは、やはりどこか楽しそうに笑った。