桜木ノアのパンチの効いた自己紹介から2週間が過ぎた。
俺は、桜木ノアと、友達と言うには浅く、しかし知り合いと言うのは薄情になるくらいの関係になっていた。まあ要するに、ちょっと、ほんの少しだけ、仲良くなっていた。
理由は明確。部活だった。
部活の体験に行った際、同じ方向に桜木ノアがやって来た時点で気づくべきだったのだろう。これはまさかと思いつつ部室に行くと、当然彼女も部室に入り、クラスが同じだからという単純な理由でチームを組むことになってしまった。『マジか』という言葉が思わず口から出そうになったのは言うまでもない。
しかし、俺にはあからさまに相手を避けるような趣味はないので、まあ上辺だけと思いながら、桜木ノアと話し始めた。
意外に話の合うやつだった。
それは好きなバンドや歌手が同じだったと言うだけのありふれた理由だったのだが、正直、宇宙人と話しているんじゃないかというくらい話が合わないことを想定していたので、俺は素直に驚いた。話しかけて来た外国人が日本語を流暢に喋ってくれた時と似ているのではないかと思う。(そんな経験したことないが)
その日本語を流暢に話す外国人と、しかも音楽の趣味まで合ったわけで、こうなるとテンションが上がるのも仕方なかった。
そうして思いのほか趣味の合った桜木ノアのイメージは、俺の中ではかなり変わったのだが、クラスメイト諸君はそうもいかない。
俺は、桜木ノアがグループワーク等必要に迫られた場合以外に、クラスメイトと話している姿を見たことがなかった。
いや、訂正しよう。
クラスメイトたちが必要に迫られた場合以外に彼女と話そうとしているのを見たことがなかった。