気付くとそこは森の中だった。少年は、再び懐かしい気持ちになった。この森は見覚えがあった。少年が幼い頃、友人たちと駆け回った森だったろうか。涼しげな風がいつも吹いているその森は、子供たちのお気に入りの場所だった。
いつの間にか少年の背は縮み、傍らには同じぐらいの年頃の少女がいた。やおらに彼女の顔を見ると、ニッコリと笑い返してくれた。その笑顔を少年は、とても愛おしく感じた。
突然爆音が辺りに響いた。何かが爆発したような音だ。二人は咄嗟に耳を塞ぎ、そこにしゃがみこんだ。
「なに、いまの!!!」
「わかんないよ!!!」
少年は少女の耳を塞いでいるその手をとると、迷いなく走り出した。何故か少年にはこの森の出口がわかっているような気がしていた。
「痛い!ねえ、ちょっと待ってよ!」
「急げ!ほら速く!」
二、三度と爆音が轟く。少年は少女が恐怖のあまり泣き出すのも構わずに走り続けた。すると、今度は地響きのような音が鳴り出した。二人の足元も小刻みに震え出す。振り向いた。見ると、何人、何十人もの武装した男たちが馬に乗って走ってくる。
「王兵だ...!」
二人は懸命に走った。しかし騎馬の速度に勝てるはずもなく、呆気なく先頭の馬に追い付かれてしまった。
止まりきれなかった馬は少年を蹴り飛ばした。数秒空中を漂うと、少年は強かに体を地面に打ち付けた。呻き声が漏れる。
「████!!!」
少女が少年の名前を呼んだ。少年は渾身の力で身を捩ってその声の方を向いた。恐怖に見開かれた目が瞬いたかと思うと、
少女の頭はさっきの少年のように宙を舞った。少年の顔に打ち付けられる生暖かい液体。頭が真っ白になり、その直後に真っ黒になった。なにも見えない。その眼前にはその光景が強く焼き付いている。見開かれた目。
「......あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
ほとばしる慟哭。そしてその口は、ガントレットに装われた大きな手に封じられた。
意識が飛んだ。』