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プレゼント

 デパートで彼女のプレゼントを買った帰り、前から気になっていたバーに入った。いい雰囲気だった。内装はシンプルで、客層も上品だった。高そうな店だな、と思ったが、べつに金に困っているわけではない。まずビールをひとくち。美味い。俺の好みの冷えぐあい。クリーミーな泡。お通しは、ズッキーニ、新玉ねぎ、オリーブ、パプリカのあえもの。これまた美味い。
 居心地がよく、つい長居してしまった。〇時近くになり、団体客がなだれ込んでくる。平成から令和へのカウントダウンがしたいらしい。ばかばかしい。元号が変わったところで何が変わるわけじゃない。
 俺は勘定を済ませ、階段を下りた。背後から、「三、二、一」と一斉にコールするのがきこえた。
 外に出た。街が消失していた。果てしなく、真っ白な空間がただ広がっていた。振り返った。何もなかった。プレゼントを渡すことは、おそらく不可能だろう。

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