ーーー今日、いつもの場所で待ってます。
めぐみ
「みゆき」
めぐちゃんからのメッセージを読んでいた顔をあげると、私服姿の哲くんがみえた。「遅れてごめん!」「大丈夫」
ぱたぱたと駆けてきた哲くんの目が、にっと細くなる。「浴衣じゃん、かわいいね」ほめられると、嬉しい。
でも現実じゃないみたい、めぐちゃんのことで頭がいっぱいだから。
哲くんの話から、わたしが誤解してたんだってわかったけど、あの日から気まずくて、めぐちゃんとは教室でもあまり話さなくなっていた。
「みゆきは何たべたい?」「なんでもいいよ、哲くんは」めぐちゃんも怒ってるだろうな、と思っていたら、たった今メッセージが届いたのだ。「じゃあ焼きそばたべよ」青のりつくのにな。「うん」左手が、哲くんの右手に連れていかれる。
「あ、金魚すくいでもする?」「え」わたし、小さい魚がこわくて、そのせいで小学校のとき教室に入れなかったくらいで
「なにこれ行列だ、やめとこっか」「うん!」その話をしたとき、めぐちゃん、わたしも黒板の色がこわくて慣れるのに時間がかかったって言ってて
「あれ、哲じゃん」バレー部のひとたちだ。「ほんとにデートしてるよ」「あのこ超かわいい」「ずるいぞ哲」小さい魚と黒板じゃ、こわさが全然同じじゃないよって言ったら
「もうすぐ花火はじまるって」「ふたりも一緒にみようよ」哲くんがてをのばす。「だって、行こうかみゆき」
めぐちゃんと3時間くらい口論になったっけ。
「ひょえーもうみゆきとか呼んでんの」「哲ったら、すみにおけないな」
なんでわたし、ここにいるんだっけ。
「あれ、みゆき、なんで泣いてるの」わたし、泣いてるんだ。
「なに泣かせてんの」「いや俺なにも、」言わなきゃ。「ごめんなさい!」「え」「花火大会行くの、OKして」祭りの喧騒が、わたしの周りだけ消えていくのがわかる。
「わたし、行かなきゃならないところがあるの」「みゆき、」わたしのこと、大切にしてくれるひとがいるのに
わたしはちっとも大切にできていなかった。「ほんとうに、ごめんなさい!」
バレー部のひとたちが、哲くんをからかう声が遠くなる。
慣れない下駄は、からころからころ、神社までまっすぐに、わたしを連れていく。