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三題噺(ネギ、缶コーヒー、白+600字前後)

 これは、平々凡々とした私の日常に、ほんの少しルビを振ってくれた男の子との、数分の非日常のお話。

 広がる橙色を見上げてカラスでも鳴いてくれないかななんて思うほどには、所謂いつも通りだった私の一日。強いて言うなら、課題が大量に出されたくらいだ。課題なんて、燃えてしまえばいいのに。
 そんな日常にも綻びはあるもので、今日は偶然にもその綻びが拾い上げられた日だったのだ、きっと。
 いつもなら、きっと気にも留めなかっただろうけれど、生憎私はイヤホンを忘れてしまい、五感が正常に働いていた。そのため、お使いでも頼まれたであろう男の子に、目を引き付けられてしまった。なんせ、今にも落ちそうな袋からはみ出したネギを、引きずるように運んでいるのだから。
 ……言わんこっちゃない。
「君、ちょっと待って!」
 案の定袋から飛び出したネギを私は拾い上げ、男の子を追いかける。
 男の子は驚いたように振り返った。真ん丸な目に宿るのは、不思議そうな色。
「これ、落としたよ」
 慌てて袋を確認し、困ったように笑った。
「ありがと、おねえちゃん」
 それが違和感だったから。
「……拾わないほうがよかった?」
 なんて、ばかなことを聞いてしまった。男の子はさらに困った顔で笑った。
「ぼく、ねぎのしろいとこ、からいからきらい。でも、おかあさんに、おつかいしてきてっていわれた」
 だから、そのまま落ちてくれれば食べずに済んだのに。なんて思ったのだろうか。
 ばいばい、と振る小さな手が、とても大きく見えるようだった。
 小さな背中さえ見えなくなってから、自動販売機に立ち寄る。
 大きく息を吸ってみた。
「……よしっ、課題でも頑張りますか」
 缶コーヒーのボタンを押したら、準備は万端だ。

  • 個人的にある先輩とお題を出し合ったものです。
  • お時間あるときにでもぜひ。
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