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LOST MEMORIES 番外編「雨2」

 息を切らして走る少女。この子の名前は歌名。
「降ったなー……。」
 雫を払いながら、シャッターの下りた店の前で雨宿りをする彼女は、既にびしょびしょである。傘は、もちろんない。
 一つ深呼吸をして息を整え、止みそうにない雨に、止みそうにないな,と声をかける。
 思わずため息をついた歌名は、ふっと目を閉じてみる。
 雨の音に耳を澄ませた。特に意味はないが、ただ止むのを待っていても、気が滅入ってくるだけだということを、彼女は知っている。
 時間が、雨音に流されていく。
「そこのおじょーさん。風邪ひくぞ。」
 声に驚き、歌名ははっと目を開く。
「英人くん!」
 見れば、傘をこちらに傾けている。
「入れば?送ってく。」
 そういえば、帰り道の方向は同じである。
「神さまっ……!」
 英人に甘えた歌名は、ぴょんと隣に滑り込む。
 英人は少し苦笑したようにし、歩き出した。
「明日も、天気は雨だ。」
「……明日は持ってきます。」
 英人の左肩は、案の定濡れていた。

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