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恋に落ちて#2

 男が目を開けると、女の泣き顔が見えた。
 後頭部の下にぬくもりがあった。女の膝に頭が載っているのだ。
 起き上がろうとするが、力が入らない。
 明かりの漏れているほうに目をやると、ロバがあらぬ方向に首をねじ曲げて倒れている。
「どうして泣いてる」
 女に視線を戻して男は言った。
「……だって……またわたしのせいで人が不幸に……えぐっ……えぐっ……」
「気にするな。もう生きるのにも飽きていたところだ」
 男がそう言うと、女は泣きやみ、きっぱりとした口調でこう言った。
「いいえ、あなたは死にません」
「えっ? ああ、そうなの。じゃあどうして身体が動かないんだろう」
「新しい身体に馴染んでいないだけです」
「身体?」
 女は今度はためらいながらこう言った。
「あなたはロバになってしまったのです」

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